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窓際天文台すぺしゃる−'09日食編−

こちらは'87年9月23日に起こった部分日食@福岡。このときは天気が良くてごらんのように木漏れ日が三日月になったのを観測できた

写真は18年前。1987年9月23日の部分日食時の木漏れ日
このときは福岡にて観察。
今回も天気がよければこのようなものも見られたはずだったのだが…

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夜にはやっぱり懐中電灯

 時は2009年7月22日。あれから18年。日食は巡ってきた。時は夏休み(いや、社会人にとっては夏休みではないのだが…)。午前9時40分開始。西南諸島では皆既日食が日本の陸上で見られる(ハズ)という世紀の大イベントが起きる。地元愛媛でも太陽が85%も隠れる。これを見ずして天文ファンは語れない。会社の休みを取り、望遠鏡を引っさげ、子供と一緒に学校のグランドに乗り込んだ…


まずは準備から

日食グラスは手に入りにくい上、値段も高い。代用品が便利  日食観察と言っても、やり方によって色々ある。基本的なのは肉眼での観察なのだが、そのまま太陽を肉眼で見たのでは目玉焼きになってしまうのでよろしくない。特に今回の日食はお昼前に起こるので、晴れていれば直射日光は強烈なものになる。かといって、市販の日食グラスは2000円近くするものもあり、値段や性能から言って少々不満もある。

 で、以前科学館の人に聞いていたお勧め品がこの溶接用保護ガラスである。溶接用なので熱線や紫外線に対する保護度合いはバッチリ…のはずなのだが、一番適しているといわれている#14のものは行きつけのDIYのお店には置いてなかった。仕方ないので置いてあった#8のものを2枚買ってきて、試しに重ねてみた。(#16相当)と、多少暗いものの、結構しっかり見えるのでこれで代用することにした。

 大きさは10cm×5cmぐらいで、両目で見るにも不自由しない。2枚重ねて使いやすいように、2枚重ねた状態でテープで張り合わせた。ちなみにこの遮光グラス。1枚230円ぐらいなので2枚買っても500円にもならない。結構便利。


 んで、結局この苦し紛れの2枚重ね、という方法が実は、これが後で大活躍することになる。
 なお、拡大観察用の望遠鏡は口径70mm、F5.6(f=400mm)の短焦点サブスコープ。観察方法は投影法。これだと目を傷める心配もないし、ケータイでも太陽の写真が撮影できるとあって、わりと便利に観察できるはず…

雨上がりのグランド

9:27 どんより曇ったグランド上空。天気予報を信じるしかないか  写真は9時27分27秒。日食開始まであと10分ほどの空だ。天気予報ではどちらかというと晴れに向かう方向だったのだが、なにせ今朝方まで雨がどしゃどしゃ降っていた状態。水はけの良いグランドに水溜りは残っていなかったが、上空には厚い雲が垂れ込めていて、太陽がどこにあるか全く分からない状態。とても日食観察ができる様子ではなかった。あきらめて中止する手もあるが、今回は部分日食でもかなり欠ける為、曇っていてもある程度明るさの観察をする予定だったのでとにかく決行。時間とともに、雲は次第に薄れていった。

 明るさを観測する方法はいたって簡単。望遠鏡の脇に三脚に立てたデジカメを用意し、まずは露出をマニュアルモードにして現状(太陽が欠けていない)の明るさでの絞り・シャッタースピードで固定する。続いて、モードを「A」(絞り優先)にし、絞りをF5.6に固定。ISOも100に固定しておく。測光モードも評価測光ではなく、中央重点平均測光にしておく。この状態で適正シャッタースピードを読めば、明るさに応じたシャッタースピードになるため、明るさがどの程度になっているか数値で観察できるわけだ。

 今思えば18年前の日食のときもできなくは無かったのだが、今回はデジカメ。記録を紙に書いておかなくても、シャッターを切って画像として残しておけば後でEXIF情報から時刻を含めて参照できる。ああ、なんて便利な時代になったのだろう。


9:50 日食開始。明るさはほぼ変わらず、1/400秒
 写真は日食開始直後の最初の1枚。写っている機材はビクセンのガイドシステムに口径70mm、F5.6の望遠鏡を取り付けたもの。そして比較対象のグランドだ。撮影機材は以下の通り。
9時50分09秒 OLYMPUS E-330 14-42mm F3.5-5.6:19mm F5.6 1/400秒 ISO100


日食経過−前半−

10:22 雲の合間に顔を出した太陽。直接撮影できた  日食は雲の上で進んでいる。9時41分。地元での部分日食が始まったが、地面の明るさは変わるわけではない。むしろ雲が少し薄くなり、太陽が高くなった分、明るくなっているぐらいだ。分厚い雲はあいかわらず上空を覆っている。しかし、雲そのものは流れていた。突然、子供が叫んだ。「赤い光が太陽が見えたゾ!欠けてる!」上空を見ると、分厚い雲の切れ目に、うす雲を通して太陽がちらちらと顔をのぞかせていた。うす雲を通しているため、肉眼でも形がはっきりわけるほど減光されているのだ。ともかく、日食は始まった

 以下、日食が始まってから、食の最大になるまでの明るさの変化をおいかけてみよう。写真はマニュアル露出で撮影したもの。次第に暗くなっていくのが分かるかと思う。同時に乗せてある数字は絞り優先におけるシャッタースピードだ。同じ明るさを保つために、次第にシャッタースピードが遅くなっていっているのが分かるかと思う。この数字を元に、日食開始時の明るさ=シャッタースピード1/400秒=100%として、明るさの相対比較を数値で表してみた。シャッタースピードが1/200秒になれば、明るさは50%になっている、というわけだ。


10:00 1/500秒
10時00分31秒。1/500秒 明るさ比=125%
まだ明るさはほとんど変わらない。むしろ明るくなったぐらいだ。
 実はこの頃から太陽が見え始めたのだが、いくらうす雲を通してといえども、まぶしいときは直視できないぐらいになる。このときに、実は2枚重ねとしていた溶接用ガラスが役に立った。2枚重ねのままや、市販の日食グラスでは減光度合いが大きすぎてうす雲越しには全く見えないのだが、2枚一組にしてあった溶接ガラスの#8をバラバラにし、1枚で使うと、丁度良い減光度合いになったのだ。これは怪我の功名だったが、相当に便利に、かつ安全に使えた。
10:10 1/500秒
10時10分16秒。1/500秒 明るさ比=125%
太陽は少し欠けてきたのだが、明るさの数値はぜんぜん変わらないが、比べてみると少し暗い。
欠けた太陽が顔を出した
雲間からようやく顔を出した太陽。うす雲を通して肉眼で確認できた。
10:24 1/320秒
10時24分45秒。1/320秒 明るさ比=80%
見た目ではかなり欠けてきた太陽。明るさも急に変化が始まった。
厚い雲を通して時折覗く太陽。欠けてきている
厚い雲の隙間を縫って、ほんの時々しか顔を見せてくれない太陽。でも確実に欠けてきていた。
10:30 1/320秒
10時30分50秒。1/320秒 明るさ比=80%
みるみる太陽が欠けていくのが分かる。明るさの変化は微妙。
肉眼でも見えるけど、細い
どんどん細くなってきて、三日月のような形に近づいてきた。雲が薄い部分はまぶしいぐらいだ。
10:47 1/125秒
10時47分00秒。1/125秒 明るさ比=31%
太陽に見とれていると明るさの測定を忘れてしまう。急激に暗くなってきた。
細くなった太陽
厚い雲の隙間が増えて、かなり見えるようになってきた。三日月のように細くなっている
10:51 1/80秒
10時51分05秒。1/80秒 明るさ比=20%
食の最大10分前。急激に暗くなった。辺りが薄暗くなったのがはっきり分かる。
高倍率コンパクトカメラで撮影
ここまでの写真は一眼レフカメラで撮影しているが、この写真は高倍率コンパクトデジカメ、TZ7での撮影。倍率は高いが、ピントや露出合わせが至難の業で、なかなか思ったようには撮影できない。
11:01 1/100秒
11時01分15秒。1/100秒 明るさ比=25%
食の最大。10分前と数字上は明るさは変わらず。ただし画像上は暗さが増している。風が涼しくなった。
望遠鏡で投影
雲の薄い部分では、望遠鏡を通して投影撮影できるようになった。食の最大なので、相当に細くなっているのが分かる。この画像を携帯やコンパクトカメラで簡単に撮影できた。

低く垂れ込めた雲は黒くなり、セミの声は止まり、涼しい風が吹き始めた

そして異変が起きたたた!

 11時には食の最大になったのだが、このときの食分は約85%。ほぼ食の最大になる直前の頃から、辺りの異変に気がついた。日食観測を始めた頃に比べると、明らかに周辺が暗いのだ。丁度夕立の直前のような感じで、これから雨でも降るのではないか、と思われるような雰囲気。実際、空の低い辺りの雲の色は最初のときと比べて明らかに黒くなっており、雲が低く垂れ込めているような雰囲気になった。

 更に不思議な感じがしたのは、グランドを吹き抜ける風が明らかに涼しくなっているのだ。うす曇とはいえ、真夏の7月22日。昼間になればそれなりに蒸し暑い時間帯なのに、明らかに涼しい。更に更に、一人が異変に気がついた。「風が…セミが…いない!セミの声が止まった!」。観測開始時、あれほどけたたましく鳴いていたクマゼミが、今は一匹も鳴いていない。誰もが初めて味わう不思議な感じに、とまどい、驚いていた。残念なのは、このとき温度計の用意をしていなかったことだろうか。明るさの変化は追いかけるつもりだったのだが、気温の変化までは気がつかなかった。



太陽は戻った−後半−

 部分日食とは言え、85%まで欠けると食分最大のインパクトはそれなりにあった。皆既日食があった悪石島とかは暴風雨にみまわれたというから、こちら四国はまだ太陽が見えた分だけマシだったのかもしれない。普通に生活していただけなら、「何か少し涼しくなったか?」と思っただけかもしれないが、きちんと観測することによって、日食の不思議さを改めて体験してしまった。子供たちよ、その目にしっかりと焼き付けるのじゃぞ。そして、脅威の食分最大時間は過ぎ去り、地上に真夏の太陽が戻り始めた…。
11:09 1/100秒
11時09分31秒。1/100秒 明るさ比=25%
食分最大から10分経過。まだ明るさはほとんど変わらない。この食最大含めて20分ぐらいは、不思議な感覚を楽しめた。
欠ける向きが変わっている
食の最大を過ぎた太陽。よく見ると、今まで太陽の右上が欠けていたのに、欠け終わりに向かって右下が欠けている状態に変化している。
11:21 1/160秒
11時21分20秒。1/160秒 明るさ比=40%
地上に明るさが戻り始めた。見る見る明るくなってきて、気温も上がってきたように思えた。
食の最大から20分ほどして、急激に周囲が明るくなり始めた。涼しい風はなりを潜め、次第に暑さが戻ってくる。雲は相変わらず厚いままだが、太陽は見えたり見えなかったり。そして、再び異変に気がついた!。「セミだ!セミが帰ってきた!」 静かになっていたグランドに、メーヴェとともに再びクマゼミの大合唱が帰ってきたのである。ほんの30分余り。静かな時間であった。
11:30 1/320秒
11時30分59秒。1/320秒 明るさ比=80%
太陽は半分までまだ少し足りないぐらいの復活度合い。でも明るさはほとんど戻ってきた。
露出の難しさ
 かなり明るくはなってきたが、太陽はまだ雲の向こうからしか顔を出さない。うす雲の度合いによっては、肉眼でもはっきり形が分かる。これまで何度となく部分日食を見てきたが、こんな風に肉眼で形が見える日食は初めて見た。いずれにせよ、雲の状態によって露出を調整しないと、なかなか形を捉えることができない。
11:40 1/400秒
11時40分42秒。1/400秒 明るさ比=100%
まだ欠けているのは十分に分かる。でも明るさは既に元通り?!。
シュロの葉ごしの太陽
太陽の形を直接撮影している場合は、フィルターも何も付けずに撮影できている。実際、今回の日食では全国各地でこのようにそのまま撮影できた場所も多かったようだ。これはシュロの葉ごしに撮影。こんな風に地上の景色と同時に写せるのは、なんとも不思議だ。日食の終わりに向けて、左下側に欠ける位置が変わっている。月が右上から左下に向かって動いていったことが分かる。
12:00 1/800秒
12時00分02秒。1/800秒 明るさ比=200%
実は本来の太陽の明るさはこれ。いや、実際にはこれ以上。これと比べると、一番暗かったときは10%程度の明るさになっていたことになる。
真夏の日差しが戻ってきた
そして真夏の日差しが戻ってきた。地面に影ができているのがわかるだろうか。このあと完全に食分が終わるはずだったが、明るさも元に戻り、お昼も過ぎたのでここで観測は終了。同時に、空は再び雲に覆われてしまった。


 最後に、これら明るさの変化をグラフにまとめてみよう。横軸に時間、縦軸に明るさとシャッタースピードをまとめてみた。グラフの左側がシャッタースピードの分母の部分だ。これがそのまま明るさの比率になる。撮影開始時の明るさ(1/400)を1.0、すなわち100%にした場合、その変化を示したのが右側の縦軸だ。簡易的な明るさ測定だし、太陽の高度や雲の度合いを無視しているのでばらつきはあるが、食の最大である11時を前後として明るさが大きく変化しているのが良くわかるかと思う。食分85%なので、明るさも80%〜90%ほど変化したことになる。なかなか面白いデータが得られたのではないだろうか。 明るさ変化のグラフ

次の大きなイベントは、2009年年末の皆既月食。果たしてまた見ることができるのだろうか。
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